カトリック校宗教教育交流誌『そよかぜ』第55号 特集---カトリック学校は変わりうるか(発行 カトリック中央協議会学校教育委員会)掲載の拙文


カトリック学校


 四ッ谷の雙葉学園での新任研修がカトリック学校教師としてのスタートだった。

そのときの講師は、イエズス会のグスタフ・フォス神父様と横浜雙葉の宗教科の先生だった。両先生のカトリック教育の魂に触れるような厳しいお話に、自分も同じカトリック教育にたずさわることができるのだろうかといった不安を感じるとともに、当時まだ授洗して一年足らずだった私は、神様がお恵みとして与えて下さった教育現場へのまねきに、全身全霊で応えたいと願った。

 大学を卒業したばかりの私は、新鮮な話にメモを取りながら聞き入った。十二年前のことであるが、書き留めたことの中で、今でも、鮮明に記憶していることがある。それは、「イエス・キリスト→教会→カトリック学校」というシンプルな図式である。

 私たちの勤めるカトリック学校は教会の学校であり、教会はイエス・キリストのメッセージを伝えるためにあるという、実に明快なこの図式こそカトリック学校に未来への展望を与えるのではないか。

 カトリック学校はいま成功しているのか。

 一部のカトリック学校の進学実績は素晴らしいものだし、躾教育で名高い学校もあり、多くのカトリック校は、社会的な評価も高く、学校としては成功している。しかし、それは、カトリック学校として成功していることとは当然違う。

 学校として進学指導やある種の躾は取り組むべきものであることは当たり前であるので、社会から評価されるものであると思う。しかし、それだけが神のみ旨かどうかということである。

 カトリック学校は教会の学校である。教会には使命がある。したがって、カトリック学校はその使命に参加しなければ、学校としてはすばらしい学校であっても、カトリック学校としての存在意義はないことは、あらゆる機会に言い尽くされている。

 その教会の使命は、すべての人に救いの福音―――イエス・キリストのメッセージを伝え、キリストに生きる新しい人を作り出し、社会を刷新していくことにある。

 もちろん、カトリック学校の使命はこれと同じではない。なぜなら、カトリック学校は、教会ではなく、教会の学校、重きは圧倒的に学校の方にあるからである。

 だが、カトリック学校の使命は、教会の使命と無関係ではない。創立者は教会の使命の中で学校を創立した。

 カトリック学校の使命とは何か。

 それは、イエス・キリストのメッセージの核心部分を、これから社会に巣立っていく若者たちに伝えていくこと。カトリック校での進路指導や生活指導は、その下で意味が出てくる。

 「あなたは大切な人なのだ」。これがイエス・キリストのメッセージ。「あなたの生には価値がある。あなたにいてほしい」。このことは、他人も大事なのだ。生そのものに価値があるのだということと同値でもある。

 踏み込めば、いのちの重さとすばらしさ。これをカトリック学校は、そこに集う児童・生徒・学生に伝えていく大切な使命を持っている。使命というと、現場では呪縛のように感じられる要素も含まれるが、いのちの重さとすばらしさ――こんなにいいことを、イエス・キリストのお墨付きで若い世代に堂々と伝えることができるのは、カトリック学校の優位性だというのはいい過ぎだろうか。

 このことが、今日、そして今後の、いのちが脅かされやすい社会では、万人とって緊急の要請であることは、回勅「いのちの福音」でも強調されている。

 実際、現場で私たちはどう振る舞えばよいのか。カトリック学校には追い風が吹いている。私たちにはイエス・キリストという、まさに生きたお手本がいるではないか。

 そのイエスは、神の愛、愛の神を現実のものとして人々に示すことによって、全世界の人々に「あなたは大切な人なのだ」ということを証した。具体的には、イエスはいつも弱い者、社会から排除されている者の側に立った。

 
話としてはわかりやすいことだが、これを一人で実行していくことは難しい。しかし、私たちが、このことを全教会の人たちの祈りと、共に働く仲間の協力によって、学校として実現を目指すことこそ、カトリック学校に未来を与える。

 旧約聖書続編「知恵の書」に、「あなたは存在するものすべてを愛し、お造りになったものを何一つ嫌われない。」という父なる神への賛美の歌がある(十一章)。
 こうした超越者への賛美と感謝を、カトリック学校で働く教職員と、そこに集う生徒たちが共有できたら、どんなにすばらしいことだろうか。そして、どんなにたくましいことだろうか。生きる力という言葉がもてはやされているが、愛されている=大切にされている実感だけが、人に真に生きる力を与える。(大矢正則)

そよかぜ

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